【元・上司採集隊シリーズ(桧枝岐篇3)】
あの…幻といわれる! 野生の巨大オオクワガタ♂を求めて!?
8月5日(土曜)
【AM5:30頃】ついに我々の採集目的地である桧枝岐村に到着した。どこか
でウグイスが鳴いている。空は晴れ渡り、まわりの山々がはっきり見える。とて
も気持ちの良い朝だ。…しかし! 野生のオオクワガタに出会えず、朝が訪れた
という事は、我々にとって敗北を意味する。何故なら、ここ桧枝岐で夏場に採集
されたオオクワガタの殆どは灯火採集で得られたものであるからだ! 昼間、彼
らが潜んでいると思われるブナの木などを見て回り、採集する事はその道のプロ
でも非常に困難らしい。現にいま、こうして現地を訪れて周囲を見回してみても、
どの木に彼らが潜んでいるのか皆目見当も付かない(当たり前の事だが、韮崎や
三草山で良く見られるようなクヌギの巨大台木など一本も存在しない)。ああ、
遅すぎた! 我々はもっと早い時間にこの場所へ来なければならなかったのだ!

【AM5:40頃】道沿いはどこもキャンプ場で賑わっている。しかし、まだ人
はあまり見かけない。ところで、さっき30分ほど休憩した場所から、ここまで
来る間に自動販売機を1台も見かけていない。なるほど! 桧枝岐でキャンプ場
を利用しないで、クワガタを灯火採集するには、自分で灯火を用意するか、さも
なくば、この先にある桧枝岐温泉まで行くしかないという事か。

【AM5:50頃】桧枝岐温泉に到着。この辺りに住む人達は、朝が早いらしい。
キャンプ場と違って良く人を見かける(お百姓さんのカッコをした人が多い)。
自動販売機や公衆電話があったので、一応クワガタなどが落ちていないか調べて
みたがいなかった。万事休す! …我々に与えられた時間はあと僅かしかない。

【AM6:00頃】元・上司隊長の目はスゴイ! 暗い夜道を車で時速70キロ
メートルくらいで走っていても、道に落ちている虫、壁を歩いているセミの幼虫、
木に留まっている大型甲虫などを見逃さない。生物認識力が一般の人と比べて、
ずば抜けて高いのである。何故、そんなに凄いのか元・上司隊長本人に聞いてみ
たところ、「子供の頃、昆虫採集ばかりやってたら自然に鍛えられた」という返
事が返って来た。「なるほど!」質問したデューク隊員は納得した。

 桧枝岐温泉を出発して数分ほど経った時である。

「あっ…大きなクワガタが今、道に落ちていたぞ!」

 車を走らせながら元・上司隊長が突然叫んだ。「えっ!」デューク隊員と悪友
隊員は同時に声を上げた。慎重にバックして、クワガタが落ちていた付近に車を
止める。早速、足元に注意しながら元・上司採集隊メンバー全員は車を降りた。

「あっ…」元・上司隊長はそういったきり声を出さなかった。残りのメンバーは
声すら出なかった。何故なら、我々の目の前に! 追い求めていた野生の…

 オオクワガタのオスが、車に轢かれて死んでいた

からだ。我々は皆、しばらく阿呆のようにぼぉっとそこに突っ立って、つぶれた
オオクワガタを眺めていた…。

【AM6:05頃】我に返ったデューク隊員は、無惨な姿になったオオクワガタ
の大顎の片方を指でつまんで引っ張ってみた。腹部などから飛び出した内蔵がア
スファルトと癒着している。頭部は原型をとどめてはいるものの、ヒビがいくつ
も入り、ボロボロだ。もし、生きていたらどのくらいの大きさであったのか調べ
る為、車内からダイヤル式ファイバーノギスを取り出すと、早速測ってみた。
「66ミリ…」デューク隊員はつぶやいた。腹部や上翅がぐちゃぐちゃになって
いてうまく測れないが少なくともそれくらいの大きさはあったように思われる…。

 ところで! このオオクワガタは元・上司隊長が轢いたのではなく(道路中央、
反対車線寄りに死骸は落ちていたので)、死骸の状況からみて、恐らく我々がこ
こを通る数時間以内に反対車線を走っていた車に轢かれたのではないかと推測さ
れる。

「記念に持って帰るか?」元・上司隊長がいじわるそうにデューク隊員に言った。

「大顎だけ持って帰ろうと思ったけど、やっぱり全部そこの空き地に埋めてあげ
る事にします」

「そうか…。証拠がなくなってしまうがそれでいいんだな」

「ええ…。こんなの持って帰ったらバチが当たって例のお手伝いさん型宇宙人に
さらわれてしまいますよ」

「ハハハ」二人の会話を聞いていた悪友隊員が突然低音で笑い出した。

 我々が去年から追い求めた、幻といわれる!  野生の巨大? オオクワガタ♂
の死骸は、デューク隊員持参の移植ごてを用いて、桧枝岐温泉付近の空き地に手
厚く葬られた。我々はこの場所付近を「死のオオクワゾーン」と命名した。

【AM8:00頃】元・上司隊長は車内で仮眠をとる。残りのメンバーは採集に
出掛ける。この辺はヤブカが少ない代わりにアブが多い。良く刺されそうになる。

【AM9:00頃】元・上司隊長は車内で仮眠中。デューク隊員、突然便意を催
したが、近くにトイレがない為、仕方なく、悪友隊員を見張り役につけて、沢で
野グ○をする。桧枝岐川を見ながらするのは最高だ! すがすがしい。しかし、
露出していた尻を数カ所ヤブカに喰われる。スゴクかゆい! クワガタ捕れず。

【AM10:00頃】元・上司隊長が目覚めたので、場所を変える。

【AM10:30頃】日光に向かう途中、国道352号沿いに物凄いクヌギ林を
発見したので、車を降りて調べてみる。スパイク付きマリンブーツを履いて林の
中を入ると、クヌギの倒木や立ち枯れがうじゃうじゃ、しかもカワラタケがびっ
しり生えている。穴山のまる秘ポイント以上に凄い場所だ…が、樹液を出してい
る木は一本も見あたらず、結局クワガタ捕れず。しかし、冬に斧を持って来て朽
木割りすれば、オオクワざくざくかも知れない…。もう…今回は採集を諦める。

【AM11:00〜PM7:00】鬼怒川→日光→中禅寺湖→戦場ヶ原→湯元温
泉→トウモロコシ街道(焼トウモロコシがうまい!)→吹割の滝→沼田→練馬

【PM8:00頃】練馬のファミリーレストランで、メンバー全員パフェ類を食
べながら今回の採集計画のどこがまずかったのか、雑談を交えながら話し合う。

【PM8:30頃】解散する。わかれ際に元・上司隊長はゆっくりと言った…。
「次の採集目的地は茨城県西茨城郡七会村の予定だ!」     〔以下続く〕

虫飼いのつぶやき